東京大学 大学院工学系研究科 建築学専攻

丸山研究室

材料科学と構造工学によるサステナブルでカーボンニュートラルな建築と建設産業への貢献

研究テーマ
維持保全の時代になっている今は、工学的研究から科学的研究の重要性がましてきました。材料の化学・物理を理解し,時間依存する材料の変化を理解・予測して100年以上の期間の性能を予測して使いこなす時代になりました。極限環境における材料設計,自然に学ぶ材料開発,歴史的構造物の維持保全,セメント系材料のマルチスケール性能評価研究などを題材として,新たな建設材料の開発,新たなリサイクルループの開発,既存・将来問題へのソリューションの提案,材料機能発現メカニズムの解明,サステナブル社会に貢献する人材の育成行っています。

プロジェクト
C4S研究開発プロジェクト(「ムーンショット型研究開発事業/2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現」採択課題,NEDO)
関係機関:東京大学、北海道大学、東京理科大学、工学院大学、宇都宮大学、清水建設、太平洋セメント、増尾リサイクル
コンクリートは、地球上で水に次いで使用量の多い材料・物質で、建築物・土木構造物などの社会資本整備にとって必須の建設材料です。しかし、その主要材料であるポルトランドセメントの生産に際して、有限な天然資源(可採年数は約100年)である石灰石を大量に使用するとともに、温室効果ガスであるCO2を大量に排出(世界全体の7%)しています。このような資源枯渇とCO2排出の問題を根本的に解決するため、「C4S研究開発プロジェクト」では、下図に示すように、建築物・土木構造物として蓄積されているセメントコンクリート中のCaをCO2固定化が可能な潜在的未利用資源とみなし、建築物・土木構造物の解体によって発生するセメントコンクリート廃材と大気中のCO2とを炭酸カルシウムコンクリート(CCC: Calcium Carbonate Concrete)として再生する技術を開発中です。そして、CCCを現在のセメントコンクリートに替わる主要建設材料として利用することで、新たな資源循環体系(C4S:Calcium Carbonate Circulation System for Construction)を実現することを目指しています。

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放射線照射環境下におけるコンクリートの変質とRC部材健全性評価法の構築「原子力の安全性向上に資する技術開発事業」,資源エネルギー庁
関係機関:三菱総合研究所、名古屋大学、東京大学、鹿島建設、チェコ原子力研究所、千葉大学、長岡技術科学大学、エム・アール・アイ リサーチアソシエイツ
運転開始後30年を超えて最大60年間運転する軽水炉プラントの高経年化対策のうち、取替えが困難な原子炉コンクリート構造物に関して、放射線の照射影響による劣化のメカニズムを明らかにし、安全な継続運転が可能か否かを判断するための技術的知見を得ます。合わせて、我が国の複数の軽水炉が参照し活用できる基礎データや標準的な評価手法を整備し、原子力の安全性向上に資する共通基盤の整備に資します。これによりコンクリート組成の異なる各プラントの長期運転に貢献します。

合理的な処分のための実機環境を考慮した汚染鉄筋コンクリート長期状態変化の定量評価「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業課題解決型廃炉研究プログラム(一般研究)」文部科学省
関係機関:東京大学、国立環境研究所、太平洋コンサルタント、太平洋セメント、名古屋大学、北海道大学、日本原子力研究開発機構
福島第一原子力発電所の廃炉において,コンクリート部材中の放射性物質の汚染状況(内部の濃度分布,総量)の把握は,作業を行うための除染,解体方法の選定,解体後の処分などに必要な情報になります。従来,コンクリート中の物質移動について,陽イオンの挙動は明らかになっていない上,さらに,海水との相互作用,コンクリートの経年変化と原子炉の発熱による高温履歴の影響など,複雑な要因が多いです。これらの基礎的情報を取得した上で,物質の浸透予測を行い,原子炉構造物の汚染状況を推定する手法の構築が本研究の目的です。

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コンクリートにおけるCO2固定量評価の標準化に関する研究開発
「CO2排出削減・固定量最大化コンクリートの品質管理・固定料評価手法に関する技術開発―GI基金プロジェクト」

関係機関:東京大学、太平洋コンサルタント、千葉大学、琉球大学、広島大学、北海道大学
現在,さまざまなコンクリートにおいてCO2の固定化が議論されています。従来のセメントは,セメント製造時に石灰岩の分解によるCO2を多量に出すために,コンクリート業界はCO2排出量の一定量に責任があらため,あらたなコンクリートが検討されている状況です。これらの開発において,健全な市場を構築する上では評価方法の標準化が必要です。本研究開発では,将来的なJIS/ISO化を目的とした評価方法の開発とそれに資するデータの整備を行います。

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都市インフラを対象とした気候変動影響予測と適応策の検討と評価 「(S-18)気候変動影響予測・適応評価の総合的研究」
関係機関:名古屋大学、東京大学
気候変動適応シナリオに基づき、建築物および社会基盤施設に関する適応計画・適応策の検討を支援する科学的情報を提供します。日本全体を対象に建築物および社会基盤施設(道路、上下水道他)のストック及びフローを解析・モデル化を行い、空間情報に基づき気候変動適応シナリオによる影響を検討します。同検討にあたっては、適応シナリオによる影響を都市レベル、構造物レベル、建設素材レベルで検討を行うために、建築物および社会基盤施設の適応シナリオによる影響を検討します。ここでは、都市物質循環、エネルギー、建設素材、都市気象、都市経済の複眼的な視点をもって、都市機能強化の側面と炭素排出量への影響可能性、滞留年数の変動が新技術導入機会に与える影響、気候変動に脆弱な建築物・社会基盤ストックの面的広がりを考慮に入れ、検討を進めます。

研究事例
中性化した鉄筋コンクリート部材中の鉄筋腐食速度の予測と健全性評価法の提案
中性化したコンクリート中の鉄筋腐食に及ぼす内部要因と環境要因の影響を明確し、電気化学的原理に基づき、異なる環境条件下でのセメント系材料における鉄筋腐食の律速メカニズム仮説について検討しています。実験データ、腐食メカニズムの仮説と電気化学の基本原理に基づいて中性化コンクリート中の鉄筋の腐食速度を定量化し、構造物の腐食量を把握し,RC構造物の健全性評価法の提案を目指しています。

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セメントのライフサイクルにおける日本全体のCO2吸収量の将来予測
建設分野ではセメントのCO2排出量が大きいため、効率的な排出量削減のためセメント産業のCO2収支の正確な把握が必要です。ストックと解体量を連関させたモデルとして表現することと、試験体の内部水分状態の違いに着目してCH量やC-S-HのCa/Siが変化する混合セメントにおいても促進試験から実環境への中性化深さの適切な変換方法を提案することによって、将来のCO2 uptakeの予測精度を向上させます。

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火山ガラス-セメント系における水和反応と強度発展に及ぼす火山ガラスの影響
建築材料の分野において、コンクリート混合材(SCM)を使用してセメントの一部を置換することは、CO2排出量を削減するための優れた戦略の一つです。火山ガラス微粉末(VGP)は、自然の火山活動に由来する新しいサステイナブルなSCMの1つです。セメントの水和に及ぼすVGPの影響を研究することにより,火山ガラス微粉末(VGP)を含むコンクリートとモルタルの物性を明らかにすることができます。

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炭酸カルシウムの析出によるセメントペースト硬化体の硬化反応制御
コンクリート廃棄物の粉末は、粒子間にCaCO3を析出させて固めることができ、コンクリート廃棄物を起点としたカーボンニュートラルな材料循環システムの構築に貢献することができます。

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炭酸マグネシウムを結合材とした火星上で製造可能な新材料の提案
近年、火星の探査が拡大しています。2015年に発表されたNASAの計画では2030年代での有人火星探査が目標に掲げられ,火星表面での数年間の滞在が目指されています。
建築分野への期待も高まっていますが,火星の環境は地球と異なるため,建築にはさまざまな要求性能が課されます。炭酸塩はその温度によって溶解度が変わるので,炭酸塩の析出というメカニズムを用いて,現地で入手可能な資源のみを使った新建材の提案を行います。

saeki

bme.t.u-tokyo.ac.jp