Department of Architecture – The University of Tokyo

東大卒大手ゼネコン3社長 特別座談会 〜 建築の再生へ向けて 〜

参加者:白石達(大林組社長)、宮本洋一(清水建設社長)、山内隆司(大成建設社長)、平手小太郎(東京大学教授)、藤井恵介(東京大学教授)、 隈研吾(東京大学教授)(以下敬称省略)
参加者:白石達(大林組社長)、宮本洋一(清水建設社長)、山内隆司(大成建設社長)、平手小太郎(東京大学教授)、藤井恵介(東京大学教授)、 隈研吾(東京大学教授)(以下敬称省略)

2012年11月16日、建築学科にて、東大の建築学科を卒業し日本の最大手ゼネコン3社の社長をお招きし、建築学科や建築業界の未来について語る座談会を開催しました。座談会は2時間に及び、日本や世界における建築業界の課題と可能性について、濃密な意見交換が行われました。世界の第一線で活躍する方々による生の議論は、建築を学ぶ若者にとって、とても刺激的なメッセージとなるでしょう。

建築の魅力

今日は、日本を代表する大手ゼネコン3社の社長にお集り頂きました。みなさんは偶然にも東大の建築学科出身で、日本のゼネコンと言えば世界に誇れる存在です。そんな皆さんの視点から、東大建築学科や日本の建築の未来についてざっくばらんにお話いただきたいと思います。皆さんから見て建築の魅力や強みってどういうところにありますか?

山内

大成建設山内社長
大成建設山内社長

大成建設山内社長

われわれも卒業して40年も経って集まりますと、あんまり考えずに就職したとか、あるいは建築学科に入ったという話があります。建築学科を卒業後、ある大手の不動産会社に入社した人とかが、建築学科を出て不動産会社に行かないほうがよかったと言います。不動産会社は結局、事務系が圧倒的に強い。建築学科出身者はそんなに重要視されていない。そういう意味で会社選択を誤ったと言っていました。

また、一方ハウスメーカーの場合、その会社の経営トップに建築系の人はほとんどいない。ハウスメーカーはディラー業務主体ですから、商品を売った方が評価されるのですが、そういうことを学生はあまり考えていないんじゃないか。


誰もそういうことは教えていないですからね。

白石
その前に建築の魅力を教えなくちゃいけないしね。

山内
日本の住はまだまだ延びる余地があると思う。

白石
そりゃおっしゃるとおりです。それから設計でも施工でも、ものをつくる楽しさを教えたいですね。こんなに考えたことがすぐ形になる分野は少ないですからね。

山内
それと、作ったものの形が残る。銀行や商社にいった人達はうらやましいと言います。
自分が実際設計して工事したものが、自分の子供のように形に残っていますからね。

宮本
ぼくらが学生のころにはやっぱりデザインをやりたかった。設計をやりたくて建築学科に入ったけれど、建築学科に入ってみるとみんながそういう人間で、あいつには勝てないやと施工の方にシフトしていく。だからお二人の言っていることはその通りだけれども、それを学生にアピールするのはものすごく大変なことです。

建築学科の中にはいろんな分野があって、材料や構造の分野は地味な分野ですよね。そこをいかにアピールしていくか。たとえば海外の構造事務所なんかはものすごくアピール力、発言力がある。構造系の大学院生は今はほとんど外国人と聞きますが、本当ですか?

平手
修士はそこそこですが、ドクターになると留学生がほとんどですね。どの分野でもドクターでは留学生が多くなっているのは確かです。

宮本
うちの会社ではポスドクも採用したらいいと言っています。やっぱり優秀な人間が多いでしょ。人生のうち3年遅れて就職しているだけです。研究職に進みたい人は進めばいいけれど、それ以外で本人が望めばできるだけ採用したいと思っています。

平手
博士課程の学生から聞きましたが、博士を出てどうするかという問題があるようです。本人の問題もあるけれど、会社側の雇用の問題もある。うまいマッチングがされればいいですけれど。

山内
技術研究所にいる人達が、現場の施工管理や実践の第一線に手をあげてくれるかどうかです。

宮本
技術研究所にとらわれると枠にはまっていて、今までとなにも変わらない。特に施工なんかは99%以上が会社に入ってから覚えるものです。そこのところをわかっていればどんな人でもやっていける。文系でも現場の所長やっている人いますからね。そういう意味でもわれわれ会社側が門戸を広げることは必要です。われわれの方も現状は土木建築以外の人をそんなにとっていないですよね。

山内
学生にもう少し夢を持ってもらいたい。アメリカもドイツも建設会社は、設計機能、技術開発機能、技術研究所はもっていない。われわれ日本は、設計と技術開発の機能をもっている。これは世界中の建設会社をみても日本のゼネコンしかこういう総合的な機能は持っていない。われわれもどんどん国際化しようとしています。国内の仕事は、無くなりはしないけれど、今後大きくは増えないでしょうからね。海外で活躍したい学生はwelcomeです。

建築とグローバリゼーション

藤井
これからはだんだん海外の仕事が増えてくるのでしょうか。

山内
これからどんどん増やすつもり。

宮本
どこまで増やすの?

山内
人材が集まればね。能力があれば。

宮本
うちは2割いかない。12〜13%くらい。

白石
うちはだいたい2割。


海外での日本の建設業に対する信頼は本当に高いですよね。これだけスケジュールを守って、品質のレベルも他と比べ物にならないですからね。中国も、日本の建設業に信頼を置いていて、もっともっと入ってきて欲しいっていうのが彼らの本心だと思いますね。それにぜひ答えていただき、積極的に出ていただきたいと思います。長期的にみても中国だけでなく、アジア全体が日本の建設業にとても期待を抱いていますよね。

山内
台湾では日本業者が作ったマンションは地元業者施工のマンションよりも高く売れるそうです。日本の建設会社が施工したマンションは付加価値がある。そういうブランドを確立していくことを大事にしていかないといけないですね。


設計も日本の設計士だというだけですごく信頼してもらえますよね。中国韓国アジア全体で、日本は品質だけでなくデザインのセンスもいいと思ってくれているんです。それを日本の学生はわからない。日本の中にいるとその感じがわからなくて、ちょっとでも海外で仕事をすれば、日本がいかに信頼されているか、好かれているかがわかると思います。

宮本
学生の希望であれば一時期シンガポールとかで勉強してもらってもいいですね。インターンとかで。

山内
受け入れてもいいですよ。

平手
海外で勉強したいと思っている学生は潜在的にはいるんじゃないかな。

山内
たとえば夏休みとか協力しますよ。慶応の医学部はアメリカの大学と提携して夏休みにはアメリカの大学の寮へ慶応の大学生を短期留学させて勉強させるので、慶応の学生には非常に人気がある。プリンストンとか取り組んで実地教育をしている。各大学でこういうことをやっていますから、建築学科もやってみたらいいのでは。


サマースクール的なものはやっています。ハーバードとかプリンストンとか世界的に有名な大学、東大の建築学科にきて勉強したいという大学はとても多くて人気なんです。向こうの優秀な学生と東大の建築の学生とワークショップは頻繁にやっているんです。学生たちも本当にエンジョイしています。そういうところをもっと教養課程の学生たちに見てもらわないと。

宮本
こちらからいくこともありますか?


あります。

隈教授
隈教授

エンジニアリングとデザイン

日本から海外の大学のワークショップに行ってきた学生たちは本当に楽しくて自分の世界が広がったと言っています。そこで実際の設計の議論を英語でおこなうことになるので日本にいうるよりも英語のスキルは格段にあがります。意匠系の学生に限っているわけではなく、手をあげた学生はどんどん行かせたい。今後はもっと行かせたいと思っています。
意匠をコンピューテーショナルデザインの力で材料や構造と結びつける力が世界の新しい動きで、東大はその流れをリードしようとしています。

2年前にイギリスのAAスクールから小渕先生を東大に招いて、デジタルファブリケーションラボというコンピューターを使った新しい教育の中心となってもらっていますが、彼はその領域で世界のリーダーの一人です。来た先生は、彼はイギリスの建築の最先端の教育をしていましたが彼が考えているのはイギリスではエンジニアと意匠というのは結びついているもの。いままでの隔たりというのはこれからどんどん消えていくと思うのでそのへんも学生たちに伝えたい。

宮本
なんとなく建築学科を選んだ人は、アーキテクトにならなければ何になるかというと、やっぱりエンジニアになるんですよね。エンジニアとしての位置づけが日本でははっきりしていないんじゃないですかね。


日本では世界的アーキテクトがたくさんいますが、エンジニアでも世界トップレベルなんです。

宮本
エンジニアの力がないとアーキテクチャーもうまくいかない。


そうなんです。まさにいま東大の建築学科がトライようと思っているのは、その両方をスムーズにつなげる教育なんです。

平手
意匠だけでなく材料、構造とか環境とかを統合して、建築学の新しい試みとして新たなコースを作ろうと思っています。


海外からの留学生は多いのです。

平手
大学院は比較的人気が高いのです。他大学からの人気も高いです。

藤井
外からの学生は70人くらいとるのですが国内と海外で半々くらいになりました。定員は57、今は52名、男女比率は3分の1が女性です。

ものづくりの魅力


建築の面白さについてですが、さきほど建築は残る、とみなさまおしゃっていましたが、みなさま卒業して40年、建築はやっぱりここがおもしろい、というところをご経験から聞かせていただければと思います。一番説得力があると思います。日本にある建物のかなりのパーセントを、何割かを三人の会社で作られているわけですから。

山内
文科系の学生が大きいプロジェクトに入りたいと言ってくるんですよ。現場をやりたいというか、大きいプロジェクト全体に関わりたいと言ってるんです。

宮本

清水建設宮本社長
清水建設宮本社長

さっきの面白さの話にもどると、建築はものづくりの面白さがある。通常のものづくりと言うと工場などでパーツパーツのものづくりだけど、最終形まで全部自分でやりとげるというものが、建築でのものづくり。しかもそれがいろんな材料で、いろんな人を集めて、お客様から設計事務所、実際のワーカーすべての人たちをマネジメントしながらひとつのものを作り上げていく。これが面白いのです。それが現場の所長になると、会社にいる間に5から10くらいの建築をリーダーとしてつくるので、ひとつの会社を動かして言うのと同じです。お客様からお預かりしたお金でどれだけのものを作り、社会にどれだけのものを残せるか。子供にも自慢できる、いかにいいものを作るか。これが面白みです。

山内
古い建物を解体したときに、施工した人達の名前を書いた棟札があります。そういう形で後世に名前が残る、自分の生を受けた痕跡が残るというのは他の仕事ではなかなかないですよ。


建物自身がかたちとして残っているのが最高ですよね。

山内
東京の建築ツアーなんかを我々でやってもいいですしね。


旅行にいって建築の実物をみると、雑誌で写真を見ているより建築の本当の質がわかりますよね。僕も学生のときに仲間と旅行をしながら建築をみて議論したのが授業よりもずっと勉強になった(笑)。学生は意外に旅行不精になっているから、建築学科で建築ツアーを企画してもいいかもしれないですね。

宮本
施工現場の見学などは積極的に参加する学生が多いので、外に出るのが嫌いというわけではなさそうですが、自分で計画するとなると自主的には行かないのでしょうね。なにかのきっかけを与えてあげる必要があるのかもしれないですね。

山内
建築を設計した人や施工した人が学生に説明しながら、話題性のある建築を具体的に見せれば、もっと興味が沸くのではないですか。


作った本人の話を聞くのって本当に面白いですからね。ぜひやりましょう!

宮本
あとは山内さんが特別講義をやられたみたいだけれど、そういうのを定期的にやるのもいい。いくらでも協力しますよ。我々だけでなく、別のポジション、現場の人など、希望があれば協力します。

山内
実際に特別講義したときも、たくさんの学生が集まりましたからね。

山内
私はプロジェクトマネージメントという視点で話をしました。その次に竹中工務店の北泰幸さんが同じように学生に設計の視点で講演すると言っていました。あのシリーズは何回かやったんですよね。

平手
あれは難波先生が「技術と建築」という全体タイトルで、建築家に限らずいろんな方をお呼びして話をしていただきました。

山内
学生も厳しい質問をしてきます。


でも直接話が聞けると、学生にとってはとても楽しいでしょうね。

山内
経済学部でも実際の社長を呼んで実際のビジネスの話をしているようです。


ゼネコンの社長はカリスマ性があります。日本のゼネコンは海外からみても輝いて見えます。これだけ総合力をもった組織はないですからね。建設業に限らず、統合力をもって現実化していける企業って世の中にそんなに無いですよね。みなさんにもっとカリスマ的になって、学生の憧れになっていただきたいです。中国の建設業界をみても、企業自体はとても大きいですが、システム的じゃないですよね。ただこなしているだけ。それに対して日本はソフトハード一体となったシステムをもっとアピールいただければ学生たちはそれにひきつけられると思います。

宮本
希望的観測では、国内でも自民党政権で公共事業が増え、東京オリンピック、リニア新幹線等これだけあると建設業はしばらく潤うのではないかとも考えられますが、やはりこれからは海外へもっと進出したいと思っています。きちんと手順を踏めばやっていけると思うので、それをどこまで伸ばしていけるかですね。

日本の自動車を初めてアメリカに輸出したとき、日本にはまだ高速道路がない時代だったのです。それも大量に輸出したのですが、そのとき日本の自動車はアメリカのハイウェイでエンストしたというのです。長時間運転に耐えられなかった。ですがその後アメリカでも通用する車を作り続けて今があります。ですから我々も最初に海外に行って多少つまずきましたけど、自動車と一緒だから、我々もどんどん輸出するシステムをつくろうと言っています。それができるかどうかですよね。

ヨーロッパの建築


日本の建設業は圧倒的に世界でトップだと思いますよ。技術力も丁寧さも全然違う。私もフランスの現場でさんざん悩まされています。養生という考え方がなく、つくったものはそのまま雨ざらし。ヨーロッパはもっと繊細かと思ったら物に対する丁寧さが全然ない。大事にしないんですよ。

白石
日本の現場ではお客様に引き渡す時、床の上を靴で歩かないんですよ。みんなちゃんと靴を脱ぎます。

藤井
日本の仕事はもともと現場の大工さんからずっと引き継いだものですよね。日本の大工の技術は世界的にみてとてつもなく技術が高いです。しかもそういう技術力がずっと引き継がれているというのがすごいですよね。

平手
そういう人たちをマネジメントする人がいるからずっと高いレベル受け継がれているというのもあるでしょうね。


ヨーロッパ建築ですごいと思ったのは、公共事業に対する関心の高さ、熱意ですね。日本はここ10年くらいアンチ公共事業でしたが、向こうは税金の使い方にはもちろん厳しい目で見ますが、長生き、長持ちする、良いものを作ろうとする意思は全員共通しています。

山内
シャンゼリゼ通りをみても、あれだけポリシーとして一貫して統制がとれているのは日本ではなかなかないですね。自分たちの街をレベルの高いものにしようとする意欲はすごいですよね。

宮本
そういうことに税金使うことはよしとしているんですね。

山内
でも相当コストも規制もかかってくるでしょうからね。


税金の使い方が丁寧なんだと思います。丁寧だけどちゃんとした金額を使っていますよね。フランスは政治の右左関係なくいい建築を作ることに熱心ですよね。

藤井
日本ではむしろ戦前に造った建物はすばらしくいいものがありますね。最初は繊細で華奢で、戦後は物資も足りないしいいものがつくれなかった。そこでまた壊してあたらしいものをつくる、そんなところで戦前のやり方が変わっちゃったんじゃないかと思います。明治期のものにしろ、戦前に造ったものは立派なものが多いじゃないですか。


ヨーロッパはもちろん第二次世界大戦後に建築の質が悪い時期はあります。街並みも風景も破壊された。でも反省が早かった、早く昔に戻った。20世紀の中盤はヨーロッパもアメリカも一時期どこもだめです。イタリアでは1950年代ごろからレスタウロという名の景観運動が起こって立ち直りがはやかった。日本はいま立ち直りの途中で、立ち直りつつあると思うんです。ここ10年のアンチ公共事業の波が収まって、若いひとたちの中にも建築が好きな人間がいます。そういうひとたちの若い力をうまい具合に結集させれば、日本の街はもう一度立ち直れるのは間違いないです。

宮本
公共工事のだれがどう考えても無駄だなと思うものを造ってきたのは間違いないですからね。ぼくらが自分たちで造っていてもそう思いますよ。

白石
四国に橋を3本も造っているからね。

宮本
そういうのを反省しながら、ほんとうに必要なものはこれとこれなんだという方向にもっていかないと。国民が生活する基盤をきちっと整備する必要があります。もう何も投資しなくていいと言われることもありますが、例えばダムはいらないと言っても、結局九州や紀伊半島で雨が降れば大変なことになるわけです。そういうことが起きるんだということを日本の国土だと自覚した上で、これにはお金を使わなきゃいけないというコンセンサスを得ていかないといけないですね。


フランスでは左のミッテランがグラン・プロジェでパリ再生を成功させたように、左よりの人も街をしっかり作ろうとする人が多い。やっぱりさすがナポレオン三世のパリ大改造の国です(笑)。

山内
イギリスもチャールズ皇太子が街並み保存に積極的に口をはさむでしょう。王室もそういう考えなんですよね。日本ではそういうことはないですからね。

建築と保存

宮本
保存するにしても一般目線で保存が必要なものをやらないといけませんね。建築関係の人だけで保存しようと決めると、なんでそうなの?と言われかねない。たとえば東京駅の郵便局は、保存するかしないかで大分議論が分かれました。たとえば東京駅を残すのはみんないいといっている。だけど郵便局は建築史的には必要だけれども一般の人はどう思っているのか、そのあたりも含めて考えていくことが大切なことだと思っています。


これからは保存も建築のかなり重要な分野になってきますよね。保存やリノベーションはすごい産業になると思います。ヨーロッパでは遺跡があるとチャンスとばかりにそれを新しい建築の一部にうまく取り込む。日本だと遺跡が出ると工事が遅れるという感じですが、逆の反応ですね(笑)。

藤井
一緒に住んでいるという感じですよね。全部残すのは無理だから、適切な落としどころをうまく見つけています。


それが本当に上手で大人だと思います。保存が、経済価値にもつながっていますよね。

藤井
保存によって新しい建物もよくなって、古い建物も逆に目立つような方法ですよね。ちょっとばら色的ですけどそういう方法論を、頭を使ってみつけていく必要がありますね。

宮本
ヨーロッパでは、今リニューアルやリノベーションの率が新築と半々くらいの割合です。日本はリニューアル市場が4分の1ぐらいですが、これからヨーロッパ型になってくるはずです。我々もいま長寿命建物を提案しています。新築する場合もそのようなことを考えて新築する必要があります。

山内
省資源、省エネの観点でもそうせざるを得ないですよね。いったん造ったものは大事に使うということが必要です。そうじゃないともたないですよね。

藤井
リノベーションすると構造はそのまま使えますから、付加価値の高い建築に造りかえられます。

宮本
ヨーロッパでそれができるのは、もともと階高が高いからですよね。日本だと階高が低いから難しいです。赤坂プリンスもそんなに古くないですが、実際には非常に難しいわけです。

山内
階高が低いだけじゃなく、動線計画上も複雑なので難しいのです。


アメリカやヨーロッパでも第二次世界大戦後20年ぐらいは階高はめちゃめちゃ低いんです。その20年間の建築は保存率がすごく低くて、古くなると壊される率が高い。いまだに中国はオフィスビルは階高3.5mで、4mなんてないんです。表はぴかぴかのカーテンウォールで立派なのに階高が低いから空調は全部コアからしか吹かないというので窓まで空調がいかないから暑くてしょうがないのが中国ではまだ普通です。

対談風景
対談風景

建築と生活

山内
文化、生活レベルと建築は密接ですね。生活レベルが上がらないと、建築レベルも上がらないです。


生活レベルのソフトの部分も日本のゼネコンはちゃんと目配りがあって作っている。利用者に対してゼネコン側から建築の啓蒙教育しているように見えます。

山内
それはゼネコンだけの力ではないですけれどもね。

宮本
わたしはとにかく安全のことを重視します。ドアノブのところで手をはさまないか、コンクリートの打ちっぱなしの角のところで女性のバックがぶつかって傷つくだろうとか、日本ではそういう配慮は昔からやってきていますよね。


日本の木造建築なんてそんな配慮の塊です。あんなにひとにやさしい建築はないですよね。所作と一体となって、木造建築の中に入ると所作がやさしくなり、所作がやさしいから建築もやさしくなっているという相互作用です。今は戦後のブランクをやっと抜け出してヒューマンな建築作りで、本来のやさしい日本の建築に戻りつつあると思いますね。世界の中で日本はリードできると思います。

宮本
要はアーキテクチャーとアートは違います。アートは好き嫌いで評価され、いやな人はそれでいい。でもアーキテクチャーはいやだからといって使わないとかはありえないですから。使う人が使えるものがアーキテクチャーです。


そういう意味では戦後の日本の建築家は無責任な人が多かった(笑)。ヨーロッパでは建築家は責任を負って仕事しているなと感じます。

あと、いままでいけなかったなと思うのは、日本でのコンペでとった案は予算に関係なく実現しなくてはいけないというところがあるけれども、ヨーロッパのコンペは予算がきっちり提示されていてそれが果たせないのは建築家の責任なんです。途中で解雇されてもしょうがない。日本だとコンペに勝ったらもう俺のものだ、予算なんて関係ないという感じです。これからは予算の制約のなかでクオリティがつくれなくちゃいけない。それが成熟社会なんだと思います。

ザハ・ハディッドも今北京で同じクライアントの仕事を一緒にやってるんですが、彼女もイギリスがベースなので意外にもコスト意思がとても高いです。ユニークな形ですが、あれを実現するにもコスト管理はきちっとしていてその中心人物は実は日本人なんです。感心します。ザハに限らず海外の建築事務所では日本人のスタッフが中心になっているところが多くて日本人の精密さに支えられている(笑)。日本の建築家はある意味ゼネコンに甘えていましたが、海外の場合は甘えるゼネコンがないせいでコスト管理やメンテナンスも責任感もってやっています。それがこれからのネコンと設計者とのあるべき関係だと思います。

フランスでのエンジニアに対するリスペクトは高いですが、今までの日本では低すぎました。フランスではエンジニアはプライドがあります。ナポレオン以来だといいます。ナポレオンに先見の目があって、軍隊とエンジニアが一体とならないと国は強くならないと考えた。日本だと、エンジニアは世界一の技術があるのに日本の建築業界での地位が低すぎるように感じます。今後はあげていかないといけません。

平手
日本だとどこかに属していないとやっていけないけれど、向こうだと自営で独立して自力でやっていける。ベンチャービジネスもさかんだが、日本だとそれができない。


建築を学ぶことは単にデザインやエンジニアリングを学ぶことだけでなく、それらをインテグレートする方法を学ぶことでもあります。だから、結果としてベンチャーを立ち上げる際にここで学んだことがとても役に立つ。イタリアでもベルサーチみたいに建築学科を出てファッションデザイナーになる人が多い。イタリアは建築学科を出てファッション、プロダクト、車のデザインでその業界のトップに立っている人が多い。日本でもこれからはそういう意味で建築学科からおもしろい人材がたくさん出てくるでしょう。

もう一つの建築学科の課題はアーバンデザインですね。日本の建築の人間はもっとアーバンデザインに関心をもたなきゃいけない。ヨーロッパの建築家は都市計画もやるのです。建築がわからない人間は都市計画のことを言っちゃいけないし本当は言えないはずです。日本の建築家も総合力をつけてほしいですね。

東大生へのメッセージ


今後の東大の建築学科に望むこと、それぞれメッセージをいただけたらなと思います。

山内
先生方も含め、学生の方々には「実社会との結びつきをもっと深めてもらいたいな」と思います。それを分かった上で学生の方々は進路選択、仕事選択してもらいたい。他の工学部と比べても、建築学科は実社会との結びつきが希薄だと思います。機械学科とかは企業のインターンシップをやったりしています。建築学科はやはりアーキテクトをめざしているということから実社会との密度が濃くないのかなと思います。


本来ならばいちばん結びつきがあるべきなんですがね。
東大の建築学科の第一号の日本人教授で東京駅の設計者である辰野金吾さんをみても、あの人自身が実社会とアカデミズムのインターフェイスみたいな感じです。

山内
丹下さんなど建築家との結びつきはあったとおもうのですが、我々建設業界との結びつきは少ないのではないかと思うのです。

白石

大林組 白石社長
大林組 白石社長

あとはそれに加えて、建築に関わりたいような人が集まるようなものになればいいなと思います。何年前かに施工を教えに来ていて、学生さんの中で建築に関わりたいと思っている人は半分もいないかもなぁと感じたこともありました。そこは直っているといいなと思います。


会社に入ってくる人たちは建築への情熱は感じますか?

白石
それは感じます。特に設計や開発です。

山内
でも我々の現業の第一線、施工には極力きたがらないです。どうなってるのかなと思います。

白石
でも僕だって最初は行きたくなかった(笑)。

宮本
構造設計やっていた人間で現場に出て支店長を経て役員になった人がいますが、ものづくりに興味をもったらその後どう突き進んでいくか、という勢いが若い方々には必要だと思っています。東大の学生さんに期待したいのは、他の大学の学生と比較すると確かに頭は間違いなくいいはずです。でも自分をもっと出していろんなことにぶつかっていくことには少し欠けている気がしますね。そのへんが改善されるともっと強くなると思います。


若い人たちは自分の案を出して否定されてたたかれ傷つくのを怖がりすぎですね。東大の学生は特にうたれ弱いような気がします。自分は絶対傷つきたくないという気持ちが強いです。

山内
それはきっと挫折を知らないからですよ。


そうなんです。

山内
今までずっと優等生できていますから、ここへ来てたたかれるとか、自分を否定されるという経験をしていないんです。プライドも高いですし。

宮本
他の人はなにくそというかんじで、東大には負けたくない!という強さがある。

山内
具体的に言うと早稲田に行く人は、かなりの人数が東大を落ちているわけですよ。そのバネがあります。でも東大にはないですから。実社会に入ってもそれがないからもろいです。


一度そこを超えるとバン!と伸びるのが東大生だと思います。

宮本
潜在能力はすごいと思います。


一度傷ついて挫折しても大丈夫だと分かった瞬間、大化けすると思います。

宮本
挫折しなきゃだめというわけではないですけど、挫折するためには自ら出ていかないとだめ。怖がってひいていたらなんにもならない。

山内
僕なんか東大の理科一類に入って、そこそこできるんだと思っていたけれど、入学して周りを見て、そこでもう挫折しましたからね。

平手
試験の点数が悪い人もたまに建築学科に入ってきますが、そういう学生ほどユニークでおもしろいんだということをおっしゃる先生もいました。

山内
実際の施工の面白さがわかってもらうような機会を我々も作りますから、ぜひそれを学生さんに伝える機会を与えていただけるとありがたいですね。なかなか、我々の会社の中でも第一線の現場に手をあげる人達がいないのです。

白石
そういえば模型を造るのが得意な学生は工事にむいていますよね。


インターンシステムを取り入れて、いろんな方法で現場との関係を作っていきたいですね。
それも教養の学生たちに見せたいですね。

山内
僕らのころは現場のアルバイトなんかもありましたよ。現場のご飯をたべさせてもらいながら見よう見まねでインターンシップみたいなものがありました。


楽しく社会体験のできるインターンシップを早い段階から体験させたいですね。大学と社会とがもっと近くなることが必要ですね。