建築学科・建築学専攻へようこそ

建築学へようこそ

建築学とは、建築を造るための総合的な学問体系です。日本のおける建築学は、一般にエンジニアリングとデザインが融合した形式となっており、本学をはじめとして工学系領域に属していることが多いのですが、世界的に見るとエンジニアリングとデザインが分離されていることが多く、日本のスタイルはどちらかというと特異なものであると見なされています。ただ世界最古といわれる建築書、Vitruviusの「建築十書」(B.C.30年頃)では、建築が有すべき三大要素として、構造の「強」、機能の「用」、美しさの「美」が挙げられており、古くからこれらの価値概念の調和が建築の完成度を決定するとされてきました。このことはむしろ日本のスタイルが本来あるべき姿であることを示唆していると考えられます。

建築学は、この「強用美」の理念をより広くより深く進化させ、多様な分野を形成して現在に至っています。建築学の中に東京大学の全学部の研究領域と通じる分野が存在しているといっても過言ではありません。建築学科・建築学専攻に学ぶ皆さんは、学年進行に伴って、ある分野のSpecialistとして専門性を追求することになりますが、建築学は多様な分野が融合したものであることを意識し、Generalistとして総合的な観点も持ち続けていただきたいと思います。

また「建築は人間の生活を入れる容器」であるとよくいわれます。ものづくりという点で見た場合、建築には、構造体を丈夫に造ることが重要なのはいうまでもなく、それらの間で形成される空間や環境の質も重要であること、ヒューマンスケールで造られた建築空間には、安全性、衛生性、利便性、快適性など人間の 生活環境を支える多様な機能が要求されること、基本的にその場で造られる一品生産であり、建築を造る行為には着実性が要求されること、構築物としての法的規制、商品としての市場原理、作品としての審美眼や時間経過などに耐えることで形成される多面的な価値を持っていること、などの特徴があり、これらすべてをある程度の水準でかつバランスよく仕上げなければならないということが、他の工業製品とは決定的に異なる点です。以上のように、建築がヒューマンスケールで日常の人間生活と密接な関係があるため、建築学の修業においては、体得や体感に頼る部分も多くなります。多少比喩的な言い回しになりますが、皆さんの周りには建築学の教材が溢れていますので、日常的に「足で見て手で考える」ことを実践していただきたいと思います。

2011年3月の東日本大震災後の一連の問題のいくつかの場面において、最後に頼れるものは人間の手であり足であるということを改めて痛感させられました。「足で見て手で考える」ことは、建築学の重要な方法論の一つでありますが、人間として生きるための知恵を創造する大きな手段になっていると考えてもいいのではないかと思います。