University of Tokyo – Department of Architecture

2022 Graduation Production

2022年度卒業制作展示風景

辰野賞

今田 木葉実   斜面に戻す、斜面がつなぐ
 「三大学合同講評会」長谷川香賞・オーディエンス賞 受賞
 「第32回東京都学生卒業設計コンクール2023」日本建築家協会関東甲信越支部
   西田司賞 受賞
 「JIA全国学生卒業設計コンクール」出展

今田木葉実_作品紹介

中村達太郎賞

上條 陽斗   計算博物学序説 
 「三大学合同講評会」那須聖賞 受賞
 「第32回東京都学生卒業設計コンクール2023」日本建築家協会関東甲信越支部

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奨励作

Aコース(設計)
伊藤 大翔   保全と生産がつくる新・林業景観
高井 千春   本郷とキャンパス -文化を学び、つながる
田崎 祥    飾る宝の入り来る港

 「三大学合同講評会」佐藤淳賞 受賞
 「第46回 学生設計優秀作品展」レモン画翆 出展
中島 博雅   人の巣
西山 奈那   追憶の森
山口 湧太   まちを歩く、ワイナリーを歩く
 
 「全国大学・高専卒業設計展示会」日本建築学会 出展
山路 湧    ツールライブラリー
四方 璃玖人  青山霊園を紡ぐ
 
 「卒業制作2023」近代建築社 出展

Bコース(研究)
嘉手川 航   盛る・掘る・固まる
平林 一成   自己釣合モジュールを用いた折り畳み可能な自由曲面シェルの提案


選評

 2022年度の卒業制作は、現在我々が直面している社会的課題に向き合っているテーマが多く、作品の全般的なクオリティが高かった。近年、建築は、プレゼンテーションや住民説明会など様々な場面で説明を求められている。そのため、説明する能力はますます重要になってきた。しかし、それが徐々に逆転して来ている。つまり説明できる範囲内で建築を作っていくということが多々起きている。このような傾向は建築を面白くないものにしていく可能性が高い。たまたまよく分からないものができたけれども、後から説明が見つかることも多いにあるということを覚えてほしい。そのため、直観やぼんやりしているアイデアも捨てず、大事にしてほしい。

Aコース(設計)
今田 木葉実「斜面に戻す、斜面がつなぐ」《辰野賞》
横浜市美しが丘の高低差のある住宅地において、老朽化した擁壁を取り壊しながら宅地を斜面化し、丘に戻していく提案。道、住宅、ゴミ置き場、地域EV、スモールモビリティなど、多角的な提案を通して、斜面を積極的に読みかえ、住まいこなす過程を描き出した。擁壁によって個人所有に分解された現代の宅地に対する本質的な問いと、建築的な介入の過程で描かれた斜面と空間の関係性が高く評価された。事業主体の設定や、街の統一感を担保するための方策にやや課題を残すものの、道路に対してレベルを徐々に変えながら斜めに建ち並ぶ居住空間がつくる新しい隣接関係には潜在的な可能性を感じさせるものがあり、既存の敷地割を超えた街の展望や土地利用に至るまで、広範な議論が交わされた。

伊藤 大翔「保全と生産がつくる新・林業景観」〈奨励作〉
需要減少により衰退が進む北山杉林業を舞台に、放置された杉林を複層林/複相林に変えつつ、そこで得られる木材の製材・乾燥・保管のための施設を、木材を活用したRC造小学校の減築および将来的な建て替えにより提案する作品である。
山の管理の問題と、それに結びついた建築を一体的に考える構想が高く評価された。一方で、森に比べて建築の在り方の新しさに欠ける点が指摘され、森の動きに応じて動きのある建築の提案への期待が寄せられた。

高井 千春 「本郷とキャンパス -文化を学び、つながる-」〈奨励作〉
街と大学の関係について再考察した作品である。大学のグローバル化による学生のための礼拝施設の必要性を背景に、東京大学本郷キャンパスの大通り沿いに礼拝機能を含む公共空間を設計し、大学がより地域に貢献することを目指した。
正門と赤門の間を変えるということで、大学のイメージが変わり、街との関係について強いメッセージをあげるという非常に意欲的な提案である点、帯状に並んでいる公共施設がヒエラルキーを持つ緩い境界線を形成する点で高い評価を得た。反面、提案の切掛けとなった礼拝機能と街との関係が弱いこと、キャンパスの内部だけではなく外側も提案に入れた方が良かったのではないかという指摘もあった。

田崎 祥「飾る宝の入り来る港」〈奨励作〉
近代化が進むにつれて街の外に追いやられてきた港湾地帯において、減築した既存倉庫にコンテナの立体格納庫を挿入することで、オークションハウスや客船ターミナルからなる複合施設を提案する作品である。
物流のダイナミックな流れが絡み合った場を都市の中に実現する点が高く評価された。
一方で、よくできてはいるものの、閉ざされていたものが顕になることに伴う、価値観を揺さぶられるような興奮を表現できていないという指摘もみられた。

中島 博雅「人の巣」〈奨励作〉
空中での横のつながりを持つ新たな街区の在り方を設計した作品である。街区を水平的にいくつかのボリュームに分節しボリュームを持ち上げ、その間に第二、第三の地面を作る。それによって、外部空間が互いにつながり、そこには商品の陳列や住宅のテラスが出てきて、それが街区における新しいネットワークを形成し繋がりあう。
建物の各階を上下左右にずらすことによって駅前の街区では見られない多様なヒューマンスケール空間が提示できた点について高い評価を得られたが、ヒューマンスケール建築がなかなか実現しない障害となっている要因についての現実的考察が足りなかったという指摘もあった。

西山 奈那「追憶の森」〈奨励作〉
山口県美祢市の石灰石露天採掘場跡地を葬斎場・墓地として転用する計画。樹木葬という形式を採り、可視化した水の流れを辿る動線に沿って空間を展開した。人間が構築物を作るために掘削した孔によってつくり出された景観を礼拝の対象として発見し、時間と共に徐々に共有化・匿名化していく弔いのあり方を示した点が高く評価された。結果として生まれる景観を日常の一部とすべきか、荘厳さを有する空間体験とすべきか、本人も定めかねている節があり、目指す空間が釈然としない点が惜しまれた。講評会の中では、ベンチカットを緑化していくことによる特異な景観やコンケーヴ地形と建築の関係性など、本提案の持つ潜在的な可能性も多く指摘された。 

山口 湧太「まちを歩く、ワイナリーを歩く」〈奨励作〉
旧遠野街道の宿場町として栄えた岩手県花巻市大迫町において、周縁に分散していたワイナリーの機能を中心部に集約し、醸造工程を表出させながら、まち全体に円環状のネットワークを形成する提案。欧州に比べ歴史が浅い日本のワイナリーを原料や製品を運ぶ川の風景やレストラン・宿泊施設のツーリズムと一体的に発信するプログラムに加え、通り土間や坪庭、ペーヴメントデザイン等、内部空間を十分に表した模型表現も高く評価された。一方で、交流拠点を作って地域を繋ぐというフレームワークはやや公共整備に近いニュアンスがあり、“正しい操作”の加算的な積み上げ以上の提案を期待するコメントも多く寄せられた。

山路 湧「ツールライブラリー」〈奨励作〉
三重県四日市市の駅前に位置する百貨店跡地を対象敷地とし、「道具」と「場」の貸し出しによって市民の互酬性を促すプログラムを提案した作品。地域通貨の問題に端を発した地域コミュニティへの関与の仕方や、現代においてあえて「道具」を介することによって生まれる関係性の再定義は示唆に富むものがあった。一方で、RCによる曲線の構造体と既存の木造古民家のモジュールを参照した副次的な構造との関係性に対しては、やや予定調和的に映る部分があり、両者の曖昧な関係やズレをきっかけとした空間性についてはさらなる探究が望まれる。

四方 璃玖人「青山霊園を紡ぐ」〈奨励作〉
青山霊園を対象地とし、楕円形の火葬場と曲線の納骨堂を設計した作品である。地面から浮いているような曲線の納骨堂は新しい形の弔い方を提供する。この建築を提案することによって、特に公営の火葬場の不足に対応し、弔いの精神が抜け落ち、弊害化している火葬の儀式の弔いの精神を取り戻すこと、また、グリッド状の墓地に曲線という新しい言語を取り入れるとした作品である。
お墓が今後都市部においてどういう風に存続してくか、都市の日常とかかわりを持つのかなど様々な問題を提起する作品であると好評された。また、建物の形に関しては、構造的にも成立するための工夫が評価された。反面、墓地の機能についての提案とともに、都市として墓地をどのように活用できるかなど都市空間の考え方からの提案もあるとより良かったのではないかという指摘もあった。

Bコース(研究)
上條陽斗 「計算博物学序説」《中村達太郎賞》
既存の分類の枠組みである従来の博物学の代わりとして、「計算博物学」という新しい知の枠組みを定義し、自らが続けてきた幾何学的性質の模索や発見を、計算博物学によって記述することを試みた作品である。負曲率曲面を漸近線で折ることによって展開可能な構造物を、離散的な構造に発展させてある程度の大きさで実現するとともに、それらの様々な形状を空間的な広がりをもった未知なる領域に位置づけ可視化することを目指した意欲的な取組みとして評価された。

嘉手川航 「盛る・掘る・固まる」〈奨励作〉
日本古来の無機系建設材料である三和土について、現代の技術的観点から見直して製造することに挑戦した点と、三和土を”たたき”ながら施工する過程を考慮した建築形態を目指した点が評価された。一方で、重機を使う施工プロセスとなる規模が適切であったのかという意見や、三和土という素材感を活かした既視感のない新しい形態に対する期待も寄せられた。

平林 一成 「自己釣合モジュールを用いた折り畳み可能な自由曲面シェルの提案」〈奨励作〉
飛び移り現象を起こすことにより展開前後で二つの安定状態があるバイステイブル(双安定構造)と呼ばれるシステムを張弦構造で提案し、完成度の高い機構モックアップで実証してみせたことが高く評価された。実用面に関して、飛び移り挙動の如何や二次部材との兼ね合い、スケールが大きくなることの影響などが議論され、アプリケーションを見越したさらなる発展に期待が寄せられた。


作品リスト 57名
Aコース(設計)
44名
舘石 透   拡張する小粒建築
中村 仁士  from exposure ビル
渡邊 隆憧  こども縁
足立 航人  並木と生きる選択
飯塚 紀穂  美術館再考
井阪 愛次郎 孤立する中野五丁目
石田 匠海  営みの倉
伊藤 大翔  保全と生産がつくる新・林業景観 奨励作
今田 木葉実 斜面に戻す、斜面がつなぐ 辰野賞
遠藤 瑶   ぶんじの街-寺院システムの再利用によるコミュニティ再生-
岡部 峻丸  Our Awara -温泉廃旅館の分解-
沖中 理帆子 築地大劇場
奥山 日菜野 光のさすアーケード 再開発区域に接する小規模商店街ビルの計画
小野 優華  ハレとケ
織原 一樹  渓谷を編む
神谷 洋介  偶発のターミナル
木島 凪沙  境界を探る 観光地江ノ島の新たなあり方を考える
黄 夢甜   海に帰る
小林 友喜  今を生きる渋谷
小松 昌樹  川崎のはしっこで暮らす
宋 姿佳   災害を越えて港を受け継ぐ
高井 千春  本郷とキャンパス -文化を学び、つながる- 奨励作
髙田 大斗  なぜいま寝殿造なのか
武田 仁志  池袋西口広場化計画
田崎 祥   飾る宝の入り来る港 奨励作
所 壮琉   リモートワークのためのライフログ的バーチャル空間
戸谷 祐登  Swing River
冨井 治弥  物ノ流レと下北沢
中川 慶人  浮雲
中島 博雅  人の巣 奨励作
長留 晶   武蔵野の台地で眺めをつくる
西内 大翔  家とともに生きる
西村 亮平  雪安居
西山 奈那  追憶の森 奨励作
原田 惇史  町屋から生まれるつながり
星川 太洋  食べごろな航路
前田 瑠嘉  大山参道の追憶
三木 健司  艇庫リノベーション:生活の中のリノベ
三室 志帆  泊まれるアートギャラリー
山口 湧太  まちを歩く、ワイナリーを歩く 奨励作
山路 湧   ツールライブラリー 奨励作
四方 璃玖人 青山霊園を紡ぐ 奨励作
和田 熙仁  デジタル社会における図書館
山中 惇   見守り見守られるべき場所

Bコース(研究)13名
今枝 颯一  脱皮/代謝する菌糸体断熱 Molting or Metabolizing “Mysulation”
板橋 卓   触って分かる柱脚の崩壊挙動
内田 智也  走行型炉の逐次溶着による曲面ガラス溶着
小川 啓悟  デジタル画像相関法を用いた安全制御システムの提案
カ モクセイ 月面滞在施設の計画・設計のためのデータ基盤地図
嘉手川 航  盛る・掘る・固まる 奨励作
上條 陽斗  計算博物学序説 中村達太郎賞
財木 一多  木造五重塔の鉛直荷重による軒架構の変形について
辻井 萌々香 太陽光発電量に基づいた建物の形状決定手法の考案
二瓶 雄太  建築の弔い ホンダ八重洲ビルのアーカイブ活動を通して
平林 一成  自己釣合モジュールを用いた折り畳み可能な自由曲面シェルの提案 奨励作
堀川 大賀  顕熱負荷の観点から見た地域別建物の形状最適化
宮野 航綺  炭酸カルシウムコンクリートの効率的製造システムの提案 〜温泉水の可能性を探る〜