東京大学 大学院工学系研究科 建築学専攻

2020 Graduation Production

2020

辰野賞


中村 遼   水と向き合う、この街の巡り方

 「三大学合同講評会」樫村芙実賞 受賞
 「第44回 学生設計優秀作品展」レモン画翆 出展

金子 広季  雪田風景

 「三大学合同講評会」三谷徹賞 受賞
 「第30回JIA東京都学生卒業設計コンクール2021」日本建築家協会関東甲信越支部 出展

中村達太郎賞

小鷹 渉   炭酸カルシウムコンクリートの建築的利用の検討

奨励作

Aコース(設計)
南 佑樹   GYOKO PARK

 「三大学合同講評会」出展
 「第30回JIA東京都学生卒業設計コンクール2021」日本建築家協会関東甲信越支部 出展
西本 清里  帯を纏う 地形と鉄道に寄り添う建築
 「全国大学・高専卒業設計展示会」日本建築学会 出展
安東 慧   成長なき繁栄を目指して
安藤 凜乃  農にとける

 「卒業制作2021」近代建築社 出展
大嶽 有加  お茶小コンプレックス 都市型小学校をまちに開く
花畑 三華  田園の渡し

Bコース(研究)
大西 健太郎 寛永寺文殊楼の研究
氷見野 文穂 法隆寺金堂初層軒先の構造模型
三浦 隆哲  エアロゲルの建築的可能性を探る
森永 魁   透明材料の内部応力自動計算ツールの作成


選評

 本年度はコロナ禍で卒業制作における作業等あらゆることが困難な状況であったが力作が多かった。特に今まで誰も取り組んでいなかったテーマが多かったことが印象深い。一方で、社会的テーマだけではなく、このような建築はどうだろう・このような形はどうだろうという疑問をから建築の可能性を探った作品が少なかったことは気になる。
今年の卒業設計は全てがオンラインで実施され、製図室で他の人とコミュニケーションをとることや模型を見ながら議論する機会がなかったのは大変残念であるが、あらかじめ建築を作ることは一人ではできないということを銘記してほしい。また、模型を前にして議論したり、沢山の人とディスカッションする中で新しく見えてくる世界は建築において不可欠なものなので、そのチャンスや楽しさを感じる機会を追求してほしい。

Aコース(設計)
中村 遼 水と向き合う、この街の巡り方《辰野賞》

 清澄白河を流れる仙台堀川に沿って複数の橋詰広場を整備し水辺空間の再生を行うとともに、船とシェアサイクルを用いてスローモビリティのハブとして活用することで街の暮しを再定義する提案である。丁寧な街の読み取りから雁木・州浜といった形式の発見、密度の高いプレゼンテーションにいたるまで総合的な完成度の高さが大変高く評価された。さらに遅い交通にあわせた建築のあり方が明確に示されれば、より今日的な提案になったという指摘がなされた。

金子 広季 雪田風景《辰野賞》
 観光客の途切れたスキー場の再生計画。森林の再生をはじめ、雪などの環境資源を利用した建築群の提案で、縮小する地方都市おける新しい未来の姿を描いている。大変チャレンジングなテーマに取り組んだところが高く評価された。一方、雪崩のRC造防護工においては積雪量や雪の流れなどをシミュレーションした上でデザインや配置を行なった方がより説得力があること、RC造の防護工(土木)と木造の建物(建築)が同じデザイン論理で設計されているが、違う論理で設計した方が良かったのではとの指摘もあった。

安東 慧 成長なき繁栄を目指して〈奨励作〉
 熊本市を対象にした市庁舎の分散配置計画で、庁舎を一つの大きな公共施設として作ることではなく、市電沿いに分散させ、地域のモビリティと接続した提案である。地方都市における新しい庁舎建築の形を提案したことが高く評価された。一方、既存の建物をどのように利用するかについての提案が具体的ではない、分散による行政効率の低下についての提案がないとのコメントもあった。

安藤 凜乃 農にとける〈奨励作〉
 障害者施設を単なるまちと隔絶した施設として位置づけることではなく、入所者が社会との接点を持つように地域と親和的な関係を築くため、農を1つの媒体として取り組んだ提案である。今日的な課題に取り組んだ点に加え、大変丁寧な設計で評価された。講評では、平面等がまだ施設プラニングに偏っている部分もあって、個室と農をより積極的に繋げるなど、農を活用した新しい建築のありが示されていたらより良かったとの指摘もあった。

大嶽 有加 お茶小コンプレックス 都市型小学校をまちに開く〈奨励作〉
 都心回帰により都心に高齢者・障害者が増えるという予測から、都市型小学校の複合化及びまちから閉ざされた小学校を地域と親密な関係を持たせる提案である。現在小学校の課題に誠実に取り組んだ作品として高い評価を得た。一方、複合化の試みにおいてはお互いの関係性が弱く、管理上空間の繋げることは難しいかもしれませんが、視線・音など空間意外の様々な要素を活用しより積極的に関係を持たせた方が良かったというコメントもあった。

西本 清里 帯を纏う 地形と鉄道に寄り添う建築〈奨励作〉
 武蔵野台地の縁に位置する王子駅を対象として、地形や鉄道に沿った帯状の建築を飛鳥山公園との谷間に増築して、地形と土木構築物・建築が一体となったオープンスペースを提案するものである。最終的な形態が既存駅も含めて1つのランドスケープとなっており、その造形力が高く評価された。段状の形を利用する構造デザインや具体的な仕上げの検討など建築部分の提案を望む指摘があった。

花畑 三華 田園の渡し 場所を描く新幹線新駅〈奨励作〉
 福井県越前市に新たに設置される新幹線新駅の提案である。経済原理を重視して元ある風景と無関係に挿入されてきたこれまでの駅に対し、既存の水田に呼応して小さく分節されながら線状に展開する駅舎の提案は、地方都市における新駅のあり方を示すものとして高く評価された。駐車場などの駅に接続するモビリティの交通計画や地域の気候に合わせた場所の使われ方について課題が示された。

南 佑樹 GYOKO PARK〈奨励作〉
 皇居と東京駅を結ぶ行幸通りは政治的な側面も含め歴史が折重なり空間の使われ方に対しては手をつけにくい場所である。本提案は既存のグリッド状地下構造体に曲面の床を挿入し日常的なオープンスペースへと更新するもので、挑戦的なテーマと建築的操作の一貫性が高く評価された。より分かりやすいプレゼンテーションを求める指摘がなされたほか、一般的な公園と異なる祝祭性の有無について議論が行われた。

Bコース(研究)
小鷹 渉 炭酸カルシウムコンクリートの建築的利用の検討《中村達太郎賞》

 カーボンリサイクルが期待される炭酸カルシウムコンクリートを志向し、加圧成形を用いて強固な硬化体を作成した。さらに、その材料からなる凹凸ブロックを組み合わせることにより開口壁を作成し、この素材を従来のセメントコンクリートに替わる建築物の新素材として利活用することの可能性について検討した。この材料が、現代の課題であるCO2の大幅な削減に期待できることが高い評価を受けた。また、組積造に類似した利用法のみならず、鉄筋やモルタルとの併用やブロック形状の工夫によるより強固な構造形式の考案など、本技術の今後の展開に期待が持たれる。

三浦 隆哲 エアロゲルの建築的可能性を探る〈奨励作〉
 エアロゲルの高い断熱性と軽量性に着目し、ガラスに替わる新たな建築材料として用いることの可能性を検討した。3Dプリンターによるデジタルファブリケーションを想定し、エアロゲルを積層した構造物の模型を作製した。エアロゲルを用いることで、従来の無機系建築材料に比べ構造物を大幅に軽量化出来ることや、プレキャスト等の様々な構造形式の可能性を提案したことが高く評価された。グラスファイバー等を用いることによる剥離の回避や、エアロゲルの積層速度と固化速度との関係を考慮した構造物の多様な形状の提案が今後の展開として期待される。

大西 健太郎 寛永寺文殊楼の研究〈奨励作〉
 比叡山延暦寺のほか畿内の名所を本歌に、その写として造営された寛永寺の建築群に関する研究の一環で、同寺文殊楼の復元模型(1/70)を作成した。指図をはじめ、浮世絵・浮絵・銅版などの多様な一次史料にもとづいた学術的な実証性をもつ復元であることや、各部材を切り出して作成した模型の精巧さが高く評価された。他方、文献調査と模型制作の二つのプロセスの関係性をより自覚的に示す必要があったのではないか、模型材料としてバルサ材を選定したことの妥当性についてなどの指摘がなされた。

森永 魁 透明材料の内部応力自動計算ツールの作成〈奨励作〉
 ガラス溶着技術において内部応力を把握することを主な目的として、光弾性や直交ニコル法、せん断応力差積分法等の各手法を利用し、偏光板を介して撮影した透明材料の写真から内部応力を自動的に計算するための観測装置とツールを作成した。部材を撮影した画像から簡便かつ迅速に透明材料の内部応力を求めることが可能となる技術を考案したことが高い評価を受けた。本技術は、ガラスのみならず他の透明材料への応用が期待される。不透明材料や板厚が一定でない部材への応用のほか、応力算定の精度向上等が課題として提示された。

氷見野 文穂 法隆寺金堂初層の軒先の構造模型〈奨励作〉
 法隆寺金堂初層軒先を事例とした卒業論文の成果をふまえ、構造模型を作成し、その挙動を検証することで、伝統木造建築が有する構造的性能の特質の一端を明らかにしようとした作品。荷重伝達機構をはじめ、木造建築のもつ特性をよく理解したうえで、各部材や接合部の材料を選定し、構造模型がもつ再現性の限界を認識したうえで検証がなされていることが高く評価された。モデル解析と模型解析とで得られた知見を比較検討すること、平面的な模型を列状につなげるなどして立体的な構造模型の可能性などが課題として提示された。


作品リスト 54名
Aコース(設計)
35名
日比野 遼一  ドローンは町工場街区のみちをひらく
南 佑樹    GYOKO PARK  奨励作
劉 一鳴    One Small Aquarium in New Tsukiji
西本 清里   帯を纏う 地形と鉄道に寄り添う建築  奨励作
赤木 拓真   新宿プロムナード計画
浅見 紘子   New Vintage
安東 慧    成長なき繁栄を目指して  奨励作
安藤 凜乃   農にとける  奨励作
飯田 大雅   Mobility Oriented Development
浦田 泰河   Augmented Roads ーストリートにおけるARコンテンツのための仮設建築ー
大嶽 有加   お茶小コンプレックス 都市型小学校をまちに開く  奨励作
奥田 敬二郎  ひだと谷の地形にすむ
小幡 嶺介   城を身近に
金澤 泰幸   寿地区市民センター計画
金子 広季   雪田風景  辰野賞
菊池 裕斗   空き家を住む
木下 睦貴   支・張・吊
趙 文昊    虚妄の相 集合住宅に関する3つの物語
周 悠里    進め、高円寺
鈴木 敦己   大熊CROSS SCHOOL構想
チョウ ソクン これから老いる街
辻 果歩    自然と人と共生する
徳山 想    Nocturnal Architecture
中村 太一   北海道プランニング2020
中村 遼    水と向き合う、この街の巡り方  辰野賞
西山 鈴音   「官」と「民」が交わる場所
根本 侑弥   新・都心型住居
花畑 三華   田園の渡し  奨励作
深田 竜岐   排除アートを排除する
保坂 瑞希   新しい旅行スタイルに対応した温泉街の形
松澤 草汰   学びの原風景−〈学び〉の再解釈による都市型小学校の提案−
松本 直也   街と育てる。街を育てる。
水野 貴斗   MAKUHARI FARM BALLPARK
若松 凪人   我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか
渡邉 大介   築地再始動

Bコース(研究)19名
瀬戸 隆四郎  伝統的木造建築の地震時の性能把握-旧加賀屋敷御守殿門を対象として-
高野 改    建築的要素を取り入れたLEGO®新ブロックの考案
南部 光平   日射に頼らないPCM 床暖房×PCM
赤羽 日向   建築物の機能と地震危険度を考慮した耐震性能設計法のための地震動評価ツールの提案
飯塚 喜洋   タイル外壁補修のこれから
一戸 和樹   Collapse Analyzer
大西 健太郎  寛永寺文殊楼の研究  奨励作
柏木 大知   RC柱梁接合部への補強〜補強部材を選定するための計算プログラム
櫛原 千裕   CO2濃度制御を行なった室内の換気状態をシミュレーションできるアプリの制作
小暮 友太   地域冷暖房の省エネに貢献しよう
小鷹 渉    炭酸カルシウムコンクリートの建築的利用の検討  中村達太郎賞
土倉 文子   浄土寺浄土堂の柱貫接合部の構造性能と施工性について
新関 倫乃亮  スマートフォンセンサーを利用した減衰定数推定Webアプリケーション
氷見野 文穂  法隆寺金堂初層軒先の構造模型  奨励作
平井 里奈   ソフトセンシングを模した着席位置提案システム
古川 隼    デジタル東京〜実践を通した空間・社会・情報の関係の考察〜
松井 大岳   令和のプラスチック分別
三浦 隆哲   エアロゲルの建築的可能性を探る  奨励作
森永 魁    透明材料の内部応力自動計算ツールの作成  奨励作